化粧


ここは主に擬人化を取り扱っているブログです。必ず『はじめに。』にお目通しくださいませ。

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    年籠りとは言えないけれど
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      はぁっと息を吐き出せば、白い靄が溶けて消えていく。
      その靄を追うように見上げた空は、一面の星に覆われていた。
      冬の夜空の美しさというものは、何とも言い表しがたいものだと思う。


      「なーなー、椿ちゃんどうだった?」


      見上げていた星空から視線を落とすと、同時に抱き着いて来ようとする気配を感じ、ぺしんと相手の額を押さえる。
      あぅ、と申し訳程度に漏らした声の主は、気にした様子もなくへにゃりと破顔してみせた。


      「おみくじ、どうだった?」


      にへにへと締まりのない顔で距離を埋めようとしてくる背の君の額を押し止めたまま、手元の紙に書かれた小さな字を辿る。
      はっきりとはいかないまでも、満月に近い月明かりのおかげで読み取ることはできた。
      神籤に書かれている吉凶は、『吉』。
      昨年は中吉だったから、今年はもう少しいいことがあるのだろうか。
      あるといいのですけど、と口の中で呟いて、かじかんだ手を重ね合わせる。吐き掛けた息の温かさは一瞬で、手袋でもしてくればよかったと、消えていく白い息を見てぼんやりと思った。

      現在の時刻は午前零時過ぎ。
      薄暗い寂れた境内には人の気配どころか生き物の気配すらなく、耳鳴りさえ聞こえてきそうなほどの妙な静寂を保っている。
      年が明けてすでに二日経っていることや、この神社自体人目を忍ぶように建てられていることもあり、ある種の心霊スポットのようなこの場所に、真夜中にやってこようとする物好きはそうそういないようだった。

      その物好きが自分だと言われるのは心外だけれど、年が明けて二日目の夜のこの神社への初参り。
      これは屋敷に住み始めてからの習慣だった。

      この神社の近くにはもうひとつ大きな神社があり、大体の人はそちらに流れていく。
      対するこちらは知っている者のほうが少ない小さな神社だが、寂れ具合といいこじんまりとした佇まいといい、なんとも趣のある様が気に入っていた。
      なにより人が少ない。というよりいない。


      「んーと、吉?」
      「はい。けれど蒲公英さま……他人のおみくじは、あまりみるものではありませんよ…?」
      「えー?」


      手元を覗き込んでくる背の君を軽く制し、神籤を折りたたむ。
      実際どうなのかは知らないが、なんとなく、そちらのほうがご利益がありそうな気がする。

      小銭を入れて御籤を引いている背の君を眺めていると、無意識に手に力が篭る。
      くしゃりと音を立てた神籤に書かれていた内容を思い出し、軽く溜息を吐いた。


      「蒲公英さま、蒲公英さま。あなたさまは……すでに初参りをすませているのではございませんか」
      「そうだけどさー、もっかい記念」
      「おみくじ、一度ひかれたのでしょう」
      「だから記念だってー」


      せっかくだし、と笑う背の君はとてもかわいらしい。
      何の記念なのかはさっぱりわからなかったけれど。

      文字通りこれが初参りの自分と違い、背の君はすでに初参りをすませている。
      昨日友人たちと出かけていたようで、りんご飴とたい焼きをお土産に買ってきてくれた。
      そのお土産のせいで散々な目に遭ったものだが、それら自体はとてもおいしかったのでまあよしとする。というより、早く昨日のことを忘れたい。
      そうでなければ、きっと恥ずかしさで死ねる。

      何はともあれ、背の君は初参りをすませている。
      だから申し訳ないし別に付き合ってもらわなくともかまわない、とやんわり伝えたのだが、今にも泣きそうな顔で訴えかけるように見つめられては、黙って頷くより他になかった。
      さながらアイフルだろうか。くぅちゃんよりはかいくん派なのに。

      どこで覚えてきたのか知らないが、ああいう無言の抗議をされるとつらい。
      散々甘やかしているという自覚はあるものの、そのうち甘やかしてはいけない一線まで越えてしまいそうで、早いうちに手を打っておかなければ手遅れになりそうだ。


      「ほんとうに…どうしたものでしょうか…」
      「椿ちゃん、ほら大吉だったー」


      にこにこと神籤を枝に括りつけている背の君は、神籤を信じているのか信じていないのかわからない。
      ふぅと重く息を吐いて、背の君の隣に並んだ。
      細長く折った神籤を、隣の枝に結ぶ。


      「あれ、大吉って持って帰ったほうがいいんだっけ?」
      「いえ……吉凶は関係ありません。自分にとって、好ましくないおみくじをこの場でむすびつけるのです。しるされている教訓を戒めるようもちあるき、のちにお礼をこめて納めるかたもおおいのですよ」
      「椿ちゃん、嫌なこと書いてあったのか?」


      首を傾げる背の君に、いいえと緩く首を振る。


      「ようは、気のもちようです。おみくじにきまった作法はありませんし……むすぼうともちかえろうと、かまわないのですよ」


      何事も己次第なのです。
      そう言って、かじかむ手に息を吐きかける。

      ふーんとよくわからない返事をくれた背の君は、神籤を一瞥すると、ぽすりと後ろから抱きすくめてきた。
      反射ではねた体を押さえつけて、風を起こさないよう努める。
      以前は意思に関係なく吹っ飛ばしたり引っ叩いていたりしたものの、最近はその回数も減ってきた。慣れたからかと言われれば違うが、少しは成長しているのだと思いたい。


      「椿ちゃん手つめたーい」


      ご丁寧に逃がさないよう腰に片腕を回し、片手を私の手に添えて。
      耳の近くで聞こえる声は、とても楽しげだ。


      「蒲公英さまも、つめたいではありませんか……」


      自然と熱を持つ頬に、さらりとした髪が触れる。
      若干痛んだその肌触りには慣れたものだが、触れ合う感覚はいつまで経っても慣れない。
      よくよく考えれば、最近スキンシップが激しい気がする。

      抱きついてくる頻度が増えた。
      意味もなく押し倒される。
      事あるごとに口付けてくる。
      何が楽しいのかよく頬擦りされる。

      嫌なわけではないし、恥ずかしいとはいえ嬉しいことに変わりはないのだけれど、なんとなく釈然としない物が残るのは何故なのだろう。


      「……」
      「?」
      「――」
      「いてっ」


      見上げる視線に気付いた背の君がへらりと笑う。
      それについ手が出てしまった。
      最近反射で引っ叩いてしまっている気がする。気をつけなければ。


      「椿ちゃんひでー」


      そう言って頬を押さえる背の君に素直に謝ることができないのは、言葉に反して、その声音と表情が愉悦を含んでいるからだと思う。
      いつも通りと言えばいつも通りなのだけれど、どうにかならないものだろうか。
      きらきらとしたとても愛らしい背の君に溜息を吐き、額にかけた面を付け直して神前へと向かう。

      賽銭を投じ鈴を鳴らし、頭を下げて拍手を打つ。
      祈願するのは、商売繁盛。
      お願いしますともう一度頭を下げて、面を上げて向き直る。

      捻りのない二礼二拍手一礼だが、今年の初詣も恙無く終えることができた。
      なんだかんだとありつつも充実した一年だったと昨年を思い起こし、今年も満ち足りた年になればいいとしみじみと思う。

      しばらくはふつふつと浮かぶ昨年の情景に思いを馳せていたのだが、やけに静かな背後が気になった。
      また禄でもないことでもしているのだろうかと振り返ると、ぱちりと黄色い瞳とかち合う。
      段を降りた石畳の上、意外にも大人しくこちらを見上げている黄金色の君。
      ぱちぱちと目を瞬かせる自分とは対照的に、背の君はやわらかく笑って見せた。


      「お参り、おわった?」
      「……はい」


      つられるように自然と頬が緩み、応える声は自分でもわかるほど甘さを含んでいる。
      それが意外だったのか、背の君がわずかに首を傾けた。
      一拍おいて、おいでーと広げられる腕。

      ぽすんとそこに納まると、さらに意外そうな気配が伝わってくる。
      鼻腔をくすぐる香りは大好きなもので、きゅうっと胸元に顔を埋めた。


      「今年もとても、いい年になりそうです」
      「そう?」


      へらりと笑う背の君に、そうです、とほころんだままの顔で答える。

      向けられる幼さを残した笑み。
      髪を撫でる大きな手。
      包んでくれる優しい腕。
      ふわりと広がる柔らかな香り。
      私の名を呼ぶ明るい声。

      これをしあわせと呼ばずして、なんと呼ぶのだろう。

      髪をすべる指の感触に目を細めて、回した腕はそのままに背の君を見上げる。
      月明かりに照らされた瞳はいつも以上に蟲惑的に見えて、うっとりと感嘆の息を吐いた。
      その瞳に映ることが私の何よりの悦びだと、この方は気付いているのだろうか。


      「――昨年よりもずっとずっと、お慕い申し上げます。蒲公英さま」


      今年もあなたさまが、笑っていてくださいますよう。
      そう願うのは神ではなく、私自身に。

      蒲公英さまを幸福にするのは、わたくしなのですから。







      ◆  ◆  ◆  ◆  ◆





      遅くなりましたが、カサモチ様にいただいたお年賀イラストのお礼文です。
      本当に遅くなりました(泣
      一月…まだ一月だから…!

      なんだか久しぶりな気のするぽーつばです。
      今年も椿はぽーちゃんが大好きです。げきらぶ。

      椿はぽーちゃんに触られるのは恥ずかしいけど、自分から触るのは平気。
      だから結構自分からくっついていったりしてる。
      抱き着いたりとかよりは、手握ったり頭撫でたりたまに抱きしめたり手握ったり。

      カサモチ様、素敵イラストをありがとうございました!
      本年も宜しくお願い致します(*`◇´*)ゞ

      小話小ネタ諸々 | 20:21 | comments(0) | trackbacks(0) | posted by あめよ - -
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